”Flight Testing Homebuilt Aircraft”(著:Vaughan Askue)のサンプル訳
3章 最終準備
いよいよ、あなたの飛行機が飛ぶ時が迫ってきました。もし自分でテスト飛行をするつもりなら、まず自分自身の準備をしておきましょう。やっておくべきことは次の3つです。第一に、(飛行中のメカトラブルなどの)偶発事故に対処するための手順を確立しなければなりません。第二に、自分の機体を扱うのに十分なレベルまで、操縦技量を上げなければなりません。第三に、問題が生じた時、問題を回避して危険を最小限に留めるための、心構えや考え方を育成しなければなりません。
緊急手順
緊急手順の確立には、2つの段階があります。それが、手順の作成と、コックピット内での実施方法の習得です。手始めに、各系統での故障を、考え付く限り、書き出してください。次に故障に伴う現象と故障への対処を、それぞれリストアップしてください。いまあなたが行なっていることは、まさにフライト・マニュアルの緊急手順の章の作成です。これは、通勤中や昼食中の、いい頭の体操になります。作成例を図3.1に挙げておきます。手順の作成が終わったら、手薄な箇所がないか、経験豊富な人にチェックしてもらってください。その場合でも、その手順が適切かどうかを、あなたが最終判断しなければなりません。
| 緊急手順 横の操縦系統のジャミング 症状:操縦桿が横にロックする 対処: 1. ジャム(引っかかって動かなくなること)に対して操縦桿をしっかりと保持し、ペダルを使って、機体を鉛直に保ちながらヘディングを操作する。場周経路を大きくとるため、ペダルを使って操縦し、緩旋回を行なう。風上に向かって着陸する。 2.機体を鉛直に保てない、かつ/あるいはペダルでヘディングを維持できないほど、中立位置から離れた場所で操縦桿が引っかかった場合は、ジャムに対して加えていた力を、ちょっとの間緩めてみる。ジャムがとれたら、直ちに着陸して、その原因を調べる。ジャムが続く時はベールアウトする。 エルロン・ケーブルの一本が破断 症状:ロールの舵の効きが減る。操縦桿を倒しても、エルロンが一方に動かない。 対処:深いバンクはかけず、大きな場周経路で、直ちに着陸する。ロールの操作の必要量が減るように、風上に向かって着陸する。 電力の不調 症状:無線機、照明、電気式計器、燃料ポンプ、フラップなど、すべての電気機能が不調になる。 対処:マスタースイッチを切る。(管制のない)飛行場に引き返し、フラップなし着陸を行なう。 電気ショート 症状:コックピットやキャビンで、火花や煙が発生する。無線機からばちばちという音が聞こえたり、コックピットからバチっという音が聞こえる。電気式計器の動作が不安定。 対処:マスタースイッチを切る。煙が薄くなってくるようなら、飛行場に引き返して、フラップなし着陸を行なう。煙が収まらないようなら、直ちに着陸する。 |
図3.1 緊急手順の例
それでは、手順をトレーニングしましょう、つまり(一部の人がこう呼ぶように)「ハンガー・フライ」です。コックピットに座って、作成した手順を練習してください。冬に練習する場合、あるいは冬に飛ぶ予定なら、冬季用の飛行装備をすべて着用してください。そうすれば、起こりうる主な問題への対処法が習得できるだけでなく、手順の中に実行不可能なものがあることが判明するかもしれません。もし厚いコートを着ていると、スイッチやブレーカー、バルブに手が届かないのなら、今がそれを明らかにして調整するチャンスです。
引き込み脚の機体なら、機体をジャッキアップして、動作を確認しましょう。また、緊急時脚出し装置が装備されているならば、(必要なら冬季用の飛行装備を着用して)試しに作動させてください。
操縦技量
アマチュア・ビルダーの多くは、製作に3年以上の年月を費やす間、操縦技量をなおざりにしています。機体の飛行準備は、ほぼ終わっているのですから、最も決断するのが困難な問題に直面する時です。自分で飛ぶべきか、それとも最初の数フライトは、もっと腕が良い人に頼むべきか?これに答えるには、自分の飛行経験を思い返して、製作した機体の特性と比較してみなければなりません。飛行時間が150時間で、機体はセスナ152と172、ここ1年飛んでいないのなら、180馬力で対称翼のピッツS-1の初飛行を試すのは、賢明ではありません。しかし普通はこんなに簡単に結論がでるものではありません。誰かに代わりに飛んでもらう場合、それはあなたの飛行機であり、パイロットはその機体を、あなたの望むように飛ばさなければならないのだということを、忘れないでください。
自分で飛ぶと決心したのなら、基本技量をブラッシュアップしておきましょう。まず、2年に1度しかやらない操縦の復習を済ませてください。次にあなたのホームビルド機と出来る限り特徴の似た機体を使って、数時間エアワークの練習をしてください。あなたの機体がテールドラッガーなのに、その種の機体が借りられないのなら、尾部に小さな車輪の付いた機体で、何度か着陸してみるために、遠征する価値はあります。
飛行練習中、その機体で出来るなら、急旋回とスピンに重点を置きましょう。できる限り正確に、飛行機を飛ばすように努力しなければなりません。そして、離陸、フルストップ・ランディング、ゴーアラウンドを、何度かやってみましょう。繰り返しますが、正確な速度コントロールと正確なコース取りに、重点を置いてください。この練習は、自分の機体を飛ばす予定の飛行場の周辺で行なうべきです。飛行場周辺を飛びながら、近くの目印を覚え、制限区域の境界がどこか確実に理解してください。その滑走路から最も利用する可能性のある緊急着陸地点も、確認して覚えておきましょう。
初飛行の計画書を書き終えたら、最終段階です。練習機を用意して、初飛行のシミュレーションを一通り行なってください。飛行中は、緊急着陸場所を見失わないように気をつけ、トラブルが起こった時、どうやって緊急着陸場所や飛行場に辿り着くか決めておきましょう。
心構え
これで、身体的にはあなたの機体を飛ばす準備ができましたが、心の準備にはもう少し必要です。あなたは、多くの時間と労力、そして自らの多くを、その製作物につぎ込んできました。もし何か悪い事態が生じた時、それが我が身を危険に晒すことを意味しようとも、自分の飛行機を救いたいという強い心理的衝動に駆れらるでしょう。この衝動に抗いきれず、死に至ったプロのテストパイロットが何人もいます。あなたは、次の事を強く自分に言い聞かせておかなければなりません。機体に代わりはありますが、あなたには無いのです。最悪の事態が起こってしまったら、自分の身を守るために、機体を犠牲にする覚悟が必要です。
このような心構えを育成するのは容易ではありませんが、それを助けるために利用できる手法もあります。一番肝心なのは、あらゆる可能性を考えて、それぞれに対する最良の対処法を、理性的に決めておくことです。例えば、離陸後第一旋回前にエンジンが完全に停止したら、あなたはどう対応しますか?第一旋回後では?第一旋回中にパワーが低下したらどうしますか?あなたはその事を思いつきませんでしたね?ここでの目的は、一時的であれ思考が停止しがちな緊張状態にあっても、正しい判断を下すのに役立つ「決定ゲート」を思いつくかどうか、試してみることです。あらかじめ対処法を分析してまとめておけば、フライト中には適切な判断を下せますし、心を解き放って状況分析を続けられます。
あなたにできる2つめの事は、テスト飛行の練習中に、これを心の中でおさらいすることです。模擬飛行をしながら、定期的に自問自答してみましょう−ここでエンジンが壊れたら、どう対応しよう?着陸できそうな場所が見つからないのなら、本番のテスト飛行はもっと高い高度で、あるいは別の場所で行なうようにしてください。
これまで述べた心の準備が終われば、その機体で飛ぶための自分の調整を終えるだけではなく、最も安全にテスト飛行ができる状態になります。これで飛行準備は完了です。
しかし、タキシングテストが始まっても、あるいはFAAの書類仕事が終わっても、機体の状態確認は終わりません。どんなテスト・プログラムであれ、一番重要なのは点検です。人を危険に晒す前にメカトラブルを発見して、修正するのが目的です。それには、状況に応じて二種類の点検を行ないます。それが飛行前点検と構造点検です。
飛行前点検
これは通常の軽飛行機の飛行前点検と同様のものです。機体を滑走路に動かすためにエンジンをかける時には、毎回行なう必要があります。これには次の5ステップがあります。
1. プロペラに関して、安全索と全般的な状態を点検する。
2. エンジンルームに関して、磨耗、漏れ、および油面が適当かどうか点検する。
3. 脚に関して、タイヤの状態、ブレーキの状態、および漏れを確認する。
4. 操縦系統の全機能に関して、移動範囲、拘束がないか、異音などを確認する。
5. 飛行機の外皮に関して、内部破壊の可能性を示す、いかなる歪みもないか目視で検査する。
構造点検
以下の事態が発生した時には、構造点検を行なう必要があります。
・VNEや制限荷重倍数などの制限に達した時
・ ハードランディングや不意に曲技飛行のマニューバに入るなど、構造的なインシデントが発生した後
・運動包囲線図を大きく拡張した後(6章で説明します)
構造点検の目的は、あなたや機体を危険に晒す前に、構造的な損傷を明らかにすることです。
構造点検を行なうには、まずフェアリング、カウリング、点検パネルをすべてはずしてください。エンジンマウントのパイプと溶接部の両方を点検して、仕上げ塗装にクラックが入っていたり、削れていたり、あるいは変色しているなど、クラックの証拠がないか確認します。懐中電灯や鏡、拡大鏡を用いて、マウントの全箇所をあらゆる角度から目視します。さらに、ボルトやワッシャ、フランジを確認して、曲がりやすべりの証拠がないか、チェックします。
クラックだと思うけれど確信が持てない場合、その有無を確かめる唯一の良い方法が、染料浸潤法です。この手法を用いるには、汚れと塗装や仕上げ層を除いた後で、問題の箇所に表面張力の小さな染料を吹き付けます。それから染料を拭き取り、現像剤を吹き付けてください。現像剤はスポンジのように働き、拡大鏡を使えばかろうじて見えるほど、小さなクラックに残っている染料を吸い上げます。染料は現像剤と反応して、鮮やかな染みになります。AnA&PやIAで、疑わしい場所の染料浸潤チェックをしてもらえますし、比較的安価なキットも入手可能です。この種のテストには技量が要求されますので、自分の腕前に満足が行くまで、端材を使って練習してください。
エンジンマウントの点検が終わったら、エンジンルームの残りの部分に関して、漏れ、磨耗がないか、導風板(buffle)にクラックや損傷がないか、確認してください。
エンジンマウントの点検に用いたのと同じ方法で、胴体構造を点検してください。エンジンマウント、脚、主翼、座席、尾翼取り付け部の周辺のように、荷重伝達結合部に隣接した構造には、特に注意を払うこと。ズレ、ゆがみ、クラックの証拠がないか調べてください。木製構造では、木材の内部や、ボルト止めした金属製の結合金具周辺の表面に、変色が見られないか注意してください。これは、木材の中が腐っているか、木材内の水分に晒されていたためにボルトが錆びている可能性があることを示しています。
主翼の点検は、主翼と補助翼、両方の取付金具に注意が必要です。過負荷によって穴が広がったことから生じるズレがないか、調べてください。また、誰かに主翼の翼端を揺すってもらい、取付部にガタがないか見てください。目を使うのと同時に、指と耳も使いましょう。時には目視困難なほど小さな動きを感じたり、ポンという音やゴトッという音が聞こえたりすることがあります。操縦系統のリンケージとヒンジにも、ガタや変形の証拠があってはなりません。
翼構造に損傷がないか確認する方法として、固有振動数のチェックがあります。翼端を持って、入力が翼の応答周波数に一致するように、上下に揺すってください。応答が安定したら、腕時計の秒針を使って一分間の振動数を計測し、この数値を記録します。これが翼の固有振動数(回/分)で、翼の質量分布とばね定数によって決まります。主翼に著しい損傷がある場合、固有振動数は多分小さくなるでしょう。これは完璧な試験ではありませんが、振動数に変化が見られたら、翼内の構造物に問題がないか、調べてください。この試験は、グライダーのように長くて柔軟な翼にはとても効果的です。しかし、剛性が高い翼や複葉機の翼のように、固有振動数が高すぎて手では正確に測れないものに対しては、困難か、あるいは不可能かもしれません。また、固有振動数は翼の質量分布に影響されるので、この試験を行なう時は、翼内の燃料タンクをカラにしておかなければなりません。
これまで述べた方法は、木製構造、鋼管構造、アルミ構造のいずれでもうまく機能します。しかしコンポジット構造には、全く別種の問題があります。この構造に対しては、固有振動数のチェックが最初のいい目安となりますが、確実なものではありませんし、損傷箇所がどこかもわかりません。
コンポジットの損傷は、一般に座屈か層間剥離のどちらかです。座屈とは繊維を取り囲むポリエステル、あるいはエポキシ樹脂が、過負荷によって破壊する事です。最大応力は、一般に構造の外表面で生じますし、コンポジットでは外皮が主要構造の一部なので、座屈によって生じる損傷は、一般に外観検査で発見できます。座屈していれば、外皮が光沢を失っているか、あるいは目に見えて砕けています。疑念がある場合は、問題箇所の塗装を剥がして、変色していないか調べてください。損傷箇所は半透明ではなく曇っているでしょう。樹脂中の繊維が見えるかもしれません。
層間剥離は、2層のグラス層間の接着が剥がれるもので、一般に製造技術が不十分なことから起こります。しかし、疲労によって促進されるため、飛行機の寿命時間の中でいつでも発生する可能性があります。その箇所は手触りで柔らかいと感じて判明する場合もありますが、多くの場合、表面に徴候が現れません。しかし幸いなことに、このテストのために利用できる、コイン・タッピングと呼ばれている簡単な方法があります。
25¢コインで検査領域を軽く叩き、音を聞いてください。構造がしっかりしていれば、カーンという高い音が返ってきます。層間剥離を起こしていれば、ボクッという鈍い音がします。練習すれば、翼表面で層間剥離している箇所の、正確な図を作ることさえできます。この手法は、一番関心のある場所でもある、スパーなどの主要構造の場所で、最もよく効果を発揮します。
これまでに述べた点検や試験によって、構造上の問題が見つかった場合、その箇所を修理して元の強度に戻すだけでは十分ではありません。包囲線図を広げていく間に制限荷重内で破壊が起こった場合、部品の出来が悪いか、あるいは設計に欠陥があるのかもしれません。まず、壊れた部品と図面とを注意深く比較して、基本的な製作ミスがないことを確認してください。明らかなミスがないようなら、設計者に連絡して、あなたの抱える問題を、正確かつ詳細に伝えてください。これが既知の問題であり、既に修正版が手に入ることが分かる場合もありますし、あなたがその問題を報告する最初の人物かもしれません。いずれにしても、その箇所はより丈夫になるように修理しなければなりません。木製構造、鋼管構造、アルミ構造に関する修理技術は十分確立されていますが、グラス構造は、それほど単純ではありません。グラス構造の修理をする時は、修理法と材料を設計者に相談してください。
*これは内容紹介のために(有)オリンポスで一部日本語に訳したものです。掲載にあたり出版元(IOWA
STATE UNIVERSITY PRESS)から了承を得ています。