『マイ・グライダーの条件』
所有するメリットが生かせる機体を求めて
2002年5月29日
有限会社 オリンポス
四戸 哲
『使用形態』と『所有形態』
グライダーの練習を始める時は、複座機の世話になります。古いところでは、H23-C、ASK13、L13
Blanik、比較的新しいものでSZD50、IS-28、ASK21、L23
SuperBlanik等々でしょうか。中には30年以上の経年機もあります。しかし複座機を新品で購入するには、新車のポルシェターボを買うに等しい予算が必要です。使用目的からして、共同所有が自然ですが、なかなか思い切れる額ではありません。しかし複座が無くてはクラブ経営は成り立ちませんから、かなり高齢の中古機が流通し続けるのも仕方ありません。
さて、クラブにライセンサーも増え、皆ソアリングに熱中しだすと、途端に単座機が不足します。コンディションの良い休日は、泣く泣くダイブを開く事も多いでしょう。しかし、グライダーは『個人スポーツ』です。元来、独立心の強い傾向の人を惹きつけるのが『個人スポーツ』ですから、その機材は『個人所有』が自然です。
同じ空を飛ぶハンググライダーは『個人所有』が当たり前ですし、その結果として遥かに自由な空を得ています。グライダーが、取扱い全般に手間も費用も掛かるのは、高性能の代償なはず、なのに、国内では、総合的に言って、滞空時間、飛行距離共にハンググライダーに劣ります。
グライダー本来の性能を抑圧している原因のひとつは、『所有形態』だと思います。いつでも自由に使えれば、機体の性能はもっと発揮されるはずです。しかし、これは、単に所有権の問題ではありません。グライダーを『マイグライダー』にする条件を探ってみます。
『15mスタンダード』はスタンダードか?
個人で所有する単座機というと、中古の15mスタンダード機あたりが主流でしょうか。購入から運用までの様子をなぞってみます。
購入価格は、中古のプラスチックで300〜400万円といったところでしょうか。高級国産車が買える価格帯です。言うまでもなく、まず最初の壁は、この『価格の壁』です。
保管と陸送には専用トレーラーを使います。バラした片翼は8m弱ですから、トレーラーの全長は9m程度です。乗用車の全長は、5m強ですから、駐車場サイズのスペースには置けません。一般的な家屋の軒下の一辺をほとんど占有する長さです。仮に、軒下で保管が可能でも、メインテナンスには更に懐が必要ですが、広い農家でもないと、確保は難しいでしょう。(スポーツギヤの日常メインテナンスは、オーナー自身が行うべきと考えます。)
そもそも、日本の道路事情では、9mのトレーラーを牽引するのは、相当なストレスです。自家用車の長さを足すと、15m近い全長になり、むしろ荷台を延長した改造4tトラックの方が短く、運転は容易ですが、個人で4t改造ロングトラックを持つのは酔狂です。しかし、トレーラーは住宅地からは抜け出せない事が多いでしょう。何度もリンクを切り、人力で切り返すのは重労働です。また、遠征で、慣れない山道や土手道で脱輪すると大変に危険です。
機体重量は220〜250kgですから、バラした各パートは大体70〜90kgです。2人で運ぶには辛い重量ですし、組立てとなれば、最低で3人、できれば4、5人は欲しいところです。
さて、はたして、以上のようなモノを個人で所有したいか?、という問いには、絶対にNoです。得られる快楽に対して、払う労力は、とても見合いません。さっさと高性能ハンググライダーを購入すべきでしょう。それでも、グライダーにこだわる身としては、次なる疑問が湧いてきます。
「グライダーの、この大きさと重さは、はたして必然なんだろうか・・・?」
ワールドクラス効果
1994年、IGC(International Gliding Commission)がワ−ルドクラス機の設計コンペを開催してから、かれこれ8年が経ちました。加熱し続ける技術開発を牽制し、その技術を小型で低価格な機体を生み出す事に仕向けた企画は、大変に大きな成果を残しました。採用されたPW-5は順調に普及し、現在文字通りワールドクラス機としての役目を果たしているようです。日本にも既に20機以上輸入されたようですから、単一機種の輸入数では、今後間違いなく新記録を作る事でしょう。
設計コンペでは、PW-5と最後までワ−ルドクラスの座を争って惜敗したRussiaが、こだわりの無いアメリカ人達にそのコストパフォーマンスを評価され、Schweizer1-26の後継機になりつつあるのも、面白い現象です。
しかし、ワールドクラス設計コンペの果たした意義は、むしろその後の小型機ムーブメントに火を点けた事にある、と言えます。コンペが終了してからも、次々に新しい小型軽量機が登場し、更に、以前から存在したマイナーな軽量機や自作機にも、改めてスポットが当たっています。これらは思い付くだけでも、かなりの機種になります。以前から存在したものでは、
Woodstock、CarbonDragon、ULF-1、Monarch、Pioneer、最近のものではApis、Silent、Sparrowhawk、Banjo、など花盛りです。どれも自重100kg前後の軽量機です。こうした潮流に合わせて、各国で新たに軽量機の規格化が進みました。FAIのグライダーに関する規定でも、DU(Ultralight Glider )が新設され、既にいくつかの記録も申請されています。
| ・軽量機、自作機の諸元一覧 |
(*1)図面から計測
アメリカのグライダーシーン
マイグライダーに求められる性能で参考になるのは、アメリカのSchweizer1-26です。機体重量200kg強、スパン12m、L/D23、最小沈下速度0.88m/sの『低性能機』です。既に30年以上前のモデルですが、いまだに200機以上の機体が現役で、アメリカでは競技会さえ定期的に開かれています。メーカーは、ヘリコプターメーカーとして有名なSchweizer社。現在グライダーの製造はやっていませんが、ユーザーの熱意に押されて、大会のスポンサーをずっと続けているようです。この程度の性能でも、スポーツ機として支持する層があることは念頭に置くべきです。
その1-26の世代交代を進めるRussiaは、機体重量136kg、スパン12.6m、L/D31、最小沈下速度0.69m/s、そして価格は260万円!(米国内)。1-26で頑張っていたアメリカンにとって、Russiaの登場は福音だったでしょう。L/D35の中古15mクラスより、彼らはRussiaを選びます。
もうひとつ、大変に印象深いのは、Monarchで飛ぶMat Redsell氏のグライダーライフです。Monarchは、機体重量70kg、スパン13m、L/D22、最小沈下速度0.7m/s、決して高性能機ではありません。彼は仕事が終わると、愛機に乗り込み、帰宅する友人の車でトーイングしてもらい、夕方の穏やかなサーマルを乗り継ぎ、しばしのソアリングを堪能するのが日課だそうです。ビジネスマンが、アフター5にサーフボードに寝そべり、たゆたいながら、沈む夕日を眺めているような、最高に贅沢な時間の過ごし方です。
運用の壁と対処法
個人所有を考える上で、運用を妨げるのは、大きさと重さです。ハンググライダーが『保管』、『運搬』『メインテナンス』を全てひとりでこなせるのは、小さくて、軽いからに他なりません。確かに、女性や年配者では、助手が必要です。グライダーも、分解した各パートが、せめてハンググライダー程度の大きさと重量にできれば、ひとりの手伝いだけで完全に運用できるはずです。そのためには、各パートの重量は30kgから、重くても40kg以下にする必要があります。
大きさは、更に重要です。大体において、一般住宅の格納スペースで最大の場所は、ガレージです。それがガレージでなくとも、空きスペースの寸法は、自動車サイズを基準にしているのが普通です。つまり、各パートの長さが自動車の全長の110%以下でなくては、まず自宅保管はできません。具体的には、最長5.5m程度になります。これを片翼の寸法とすると、残念ながらPW-5もRussiaもガレージには入りません。しかし、スパン10mのグライダーでは心許ないですから、結局主翼は3分割か、4分割に設計する必要があります。
ガレージに入るという事は、取りも直さず自動車のルーフに積める事を意味します。セダンではルーフが短いため難しいですが、ワゴンか、ワンボックスへの積載は、さして難しいことではありません。トレーラーは無用の長物です。
カヌー、ウィンドサーフィン、ハンググライダー等、大型のスポーツ用具は、全て自家用車のルーフで運ぶのが定着した流儀です。最も経費が掛からず、しかも安全です。グライダーも例外ではありません。思い立ったら即、高速道路を使って、気軽に遠征もできるわけです。
性能の下限
最良滑空比に関して端的に言えば、15mスタンダード並みの30台後半を要するか?という問いが立ちます。答えは、PW-5、Russia人気が示す通り、否です。IGCが設定したワールドクラス機の選定基準、L/D30には、それなりに根拠があると見るべきでしょう。
しかし、ワールドクラスは競技規格です。競技としての面白さを維持するべくL/D30を維持させたという見方もあります。世界中で誰しもが認めるKa-6の性能を基準にした『分かりやすさ』も理由のひとつかもしれません。あくまでスポーツ機としての『マイプレーン』では、無理にL/D30を死守する必要は無いのでは、と考えます。速度レンジ(言い換えれば、翼面荷重)をどうするかも重要な判断で、単純に滑空比だけで語れないものの、前出のMat
Redsell氏等、或いはSHA(Sailplane Homebuilders Association)で聞かれる意見を参考に、最大L/D25を下限として良いのでは、と考えています。
最小沈下速度は、滞空時間を直接に規定する性能です。0.7m/sは確保したいと思いますが、空力的に洗練しないと、単にペネトレーション(高速時の滑空比)と引き換えになってしまうので、軽量機では特に設計に気が抜けません。
マイグライダーの条件
以上の考察から浮かび上がってくる『マイグライダー』の条件は、次の通りです。
1. ガレージに保管できること。
2. 自家用車のルーフトップで運べること。
3. どのパートも二人以下で運べること。
4. 最大L/D25以上、最小沈下速度は、0.7m/s以下のこと。
5. 国産自家用車と同じ価格帯にあること。
条件1.、2.は機体のサイズを、条件3.は、直接機体重量を規定します。各パートが30kg台であるという事は、機体の重量が、100kg前後であるという事です。つまり、
「マイグライダーとは、『自家用車で運べるULG』である。」
と、結論付けてよいでしょう。結局、日本では、全ての面で自家用車が物差しになります。従って、『マイグライダー』の確立は、おそらく、日本独特のジャンルを形成する事になると思います。
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