バッテリーパワー式グライダー

第26回OSTIV会議(1999年 バイロイト)にて発表
ステファン・ゲールマン(Stefan Gehrmann)


概要

 初のバッテリーパワー式グライダーを用いた、2年間に渡る飛行経験に基づき、電動による飛行の実際だけでなく、電動ユニットの利点と、その限界が議論された。電動式発航システムは、一度の充電で、一回の静かな発航と、クロスカントリーの保険分を提供することができる。NiCd電池の急速充電により、少ないコストと高い信頼性で、一日に数回の発航が可能になる。取扱いが簡単で、ほとんどメインテナンスが要らない、この電動ユニットは、グライダーにとって、とても快適で、大変に適したシステムだ。しかし、その蓄電容量の限界から、更に遠距離のクロスカントリー飛行から帰還する能力を与えるものではない。

 格納式エンジンのシステムを備えたグライダーの、販売と運用の増加は、自力発航と帰還能力の優位性を印象的に見せ付けてきた。それと同時に、大きな騒音は歓迎されず、社会からはグライダー活動に対して、否定的な反応を引き起こさせてしまった。更に、エンジンの空中での再始動は、常に信頼性の置けるものではなく、いくつかの避けられた事故を引き起こしてもいる。

 バッテリーパワー式電動ユニットは、上に述べたような状況を改善する、ひとつの解決策となるべく登場したものである。
一般的な動力と比較し、電動モーターは以下のような優位性を持っている:

 ・ 低騒音
 ・ 高い信頼性
 ・ 保守作業の軽減
 ・ 低い運用費
 ・ 簡単な取扱い
 ・ 公害がない
 ・ 低いエネルギー消費
 ・ 社会への受入れられやすさ
 ・ 関心の高い新技術

その欠点は、

 ・ 作動時間の短さ
 ・ いくつかの飛行場での電源確保の困難さ
 ・ 充電に要する時間
 ・ 限られたバッテリーの寿命
 ・ 初期投資額の高さ

 格納式プロペラを備えた、最初のバッテリーパワー式グライダー、『AE-1 Silent』 の開発によって、これらの電気的システムの理論的な利点の検証が、具体的に可能になった。AE-1のプロトタイプは2年間に渡って飛行を行い、1998年、ドイツにおいて型式証明を受けた。AE-1の電動系の開発における、主な目標は、グライダーの運用に通常必要な、費用と時間を軽減できる、シンプルで信頼性の高い、扱いやすいグライダーの実現だった。

 費用と便利さから、バッテリーにはNiCdの技術が選ばれた。NiCdは高い一定した性能を低価格で提供し、誰にでも扱う事ができる。その温度特性と急速充電能力は、バッテリーのオーバーヒートを起こさずに、短い周期での発航を可能にする。


『AE-1 Silent』のテクニカルデータ

 AE-1による飛行実績に基づき、上で述べた優越性は以下のように詳細に示すことができる。

騒音:

 大直径のプロペラを使用するならば、電動グライダーの騒音は無視できる程度だ。『AE-1』は、高度300mまでの最大出力上昇で、43dB(A)の認証試験を受けた。これは、だいたい航空機の飛行していない日中の飛行場の水準である。

信頼性:

 現在までのところ、電気系に不具合は生じていない。空中での再始動は、エンジンの暖気のような必要が無く、大変に信頼性が高い。従って、電動ユニットは、たとえ低高度でも安全のために使う事が可能だ。最大出力は、どんな環境でも、直ちに使用可能である。
離陸に要する距離は、高温でも、または高地でも増加しない。
しかし、パイロットは、どんな技術的システムも、100%の信頼性を提供することはできない事を忘れてはならない。

保守:

 ブラシチェックは100フライト毎。この作業に必要な時間は、約5分で、特別な訓練は不要。

運用コスト:

 一回の飛行ごとに、電源から2kWhの消費。バッテリーを使い切った場合の費用は、5DM以下。部分的な放電はバッテリー寿命を延ばし、コストは、遥かに下がる。

取扱い:

 非常に簡単にできている。メインフューズ・オン、出力制御装置スイッチ・オン、でスタート準備完了。

熱放出:

 もし、そのパワーを再生不能な、一般的な資源から得たなら、最近の発電所が2kWhを生み出すのに要した初期エネルギーに相応する。一方、1uのソーラーセルは、グライダー1機が1年間に要する以上のエネルギーを生み出すことができる。

エネルギー消費:

 一般的な発航方法と比較し、消費エネルギーは遥かに少ない。また、そのシステムの高い効率により、他の自力発航式の機体に比較した場合ですら、消費量は少ない。この消費エネルギー量は、最近の食器洗い機を一回使用した程度に相当する。

公共性:

 AE-1は、通常、ウィンチ曳航のみに制限される住宅地区にある滑空場からの離陸も許容された。

新しい技術:

 各地で大きな関心を集め、これからの発航手段として認識された。

欠点は以下の通り:

作動時間:

 全力上昇で約5分間、あるいは20分間の水平飛行。しかしながら、クロスカントリー飛行からの帰還能力を増強するものではない。

電源:

 いくつかの超軽量動力機(ULP)や滑空機の飛行場では、使用できない事がある。ドイツでは、220Vと380Vが使える例が多い。風向きによっては、コンセントが滑走路の反対側になる事がある。

充電時間:

充電時間は、電源によって制限される。最大380Vでは、完全に放電したバッテリーに対して要する充電時間は、22分であった。220Vでは、充電時間は2倍を要した。

バッテリー寿命:

300回の放電で容量の低下が見られなかった事から、このNiCdバッテリーの寿命は、完全充放電500〜700回と推側できる。昨今のバッテリーの開発ペースから言って、多分、古いバッテリーの寿命が尽きる前に、新しいモデルに交換することになるはずである。

投資額:

電動ユニットは、モーター、制御装置、フューズ、バッテリー、充電器で構成される。これらのシステムにかかる費用は、一般的な動力ユニットより、5割から10割高価となる。

AE-1の経験に基づき、電動発航システムを備えた他のグライダーの性能計算には、以下のデータを使う事ができる。

 ・モーター:制御装置込みの重量:10-15kg
 ・出力:13-22kw
 ・効率:85%超
 ・回転数:3500-5000rpm
 ・バッテリー:単位重量エネルギー:35Wh/kg
 ・単位重量出力400W/kg

 スタンダードクラスの機体用には、NiCdバッテリーを用いた格納式発航システムの総重量は、80kgと推定でき、18mクラスでは、90kg前後であろう。そして、最大出力では高度700mに達し、あるいはまた、低出力設定での飛行距離は35-45kmであろう。水バラストは性能を低下させるだろう。グライダーの重量を30kg減らす事は、バッテリーの容量と距離を60%増加させる事になる。注意が要るのは、バッテリー容量の増加は、標準的な電源の制約(ドイツでは220V、16A)で、充電時間を長引かせる事になる点である。

電動システム機の飛行練習:

ほとんどのバッテリーシステムが持つ自己放電性のため、充電は離陸の直前に行うべきである。充電時間は、380Vの電源で、平均10-15分で終了した。

従って、このグライダーは、一定して、着陸してから20分で再発航の準備ができた。一日に数回の発航が常識で、立続けに出発が要求されるクラブでは、重宝するだろう。雲底が低ければ、後の飛行の可能性を高めるため、その日の最初の発航は天候調査とバッテリーの予熱に当てることもできる。

上昇気流と最良滑空角の探索は離陸直後から開始する。できるだけエネルギーを消費しない、という目標に従い、できるだけ早く出力が絞られる。最初の発航に半分の容量が使われれば、残ったエネルギーは15kmの水平飛行か、350m上昇できる可能性を残す。この信頼できるエネルギーがあれば、不時着もずっと安全にできるし、いくつかの場合は避ける事もできる。2度目のチャンスに向け、バッテリー容量を完全に維持したまま、通常の方法で発航することもできる。多くのパイロットにとって、この手法は、クロスカントリー飛行中のストレスを除き、不時着時の損傷を最小限に減らすだろう。結果的に、より多くのパイロットがホームベースを離れ、足を伸ばそうとするはずである。

競技会の運営はより楽になるだろう。時間の計測は自力発航と共に開始し、パイロットは、衝突の危険を減らすよう、すぐさまコースに乗る事になる。開発競争にならぬよう、スパンの制限に加え、NiCdと、他の種類のバッテリーのクラスを設けるべきだろう。コストと取扱いの点から、NiCdバッテリーと12mスパン、および最大重量300kgの基本競技クラスが考えられるだろう。これは、小型で廉価なグライダーの開発を刺激し、バッテリーは、短時間で充電できるよう、十分小さいままとするはずである。

『AE-1 Silent』での実証によって、グライダーの電動化は、比較的低いコストで、かつ通常の発航方法に対しても、魅力的な選択肢であることが理解された。その技術は完成したものと証明され、パイロットにも受入れられた。それは、クリーンでエレガントでありながら、パワフルな発航方法であり、静かでダイナミックなグライディングの特性によくマッチしている。エネルギーは制限されているが、独自性と信頼性を提供する。同時に、それは最高の効率で空を渡るグライディングのスポーツ精神を支援し、更に我々のスポーツの評価を高めることだろう。