- 『学校で飛行機を作る』
- 2006/01/02
有限会社 オリンポス
四戸 哲
学校の課外活動などで、飛行機を作ってみたい、」そう考えた事のある方は、案外少なくないようです。理系教育に携わる先生や父兄、あるいは学生自身から要望が出ることもあります。学校での飛行機製作は、技術面で、また予算面で、はたして現実的なのか?この稿では、その点について、述べてみたいと思います。
飛行機の製作といっても、実際には、読売テレビの長寿番組『鳥人間コンテスト』への参加を検討する場合がほとんどのようです。30年以上前には、エンジン付きの飛行機を製作する学校もありましたが、現在では全く例を見なくなりました。法規制の強化もありますが、むしろ知識技術を持った指導者が絶えた事が主因です。結果として、『鳥人間コンテスト』は、この30年間、日本人の飛行機作りへの情熱をほとんど一手に引受けてきた感があります。
長年、この番組を見ていると気付くのですが、『鳥人間コンテスト』で一定の成績を上げているチームは、ほとんど常連チームです。新人のチームが、ある程度の成果を上げて定着する例は、実際かなり稀なのです。
10mの高さの台から湖上に飛び出す、という企画が、パイロットの安全を保障し、自作飛行機の敷居を下げた功績はありますが、飛行機の設計製作自体が簡単になったわけではありません。それどころか、"飛ぶ鳥コン機"の設計製作は、実機グライダーより難しい面すらあります。たとえば、重量です。実機のグライダーは、軽い物でも120kgはあるのですが、これでは人間が担いで走れません。重くとも50kg以内で作らねば、とても『鳥コン』では使えないでしょう。しかも、上位機は300mを遥かに超える飛距離ですから、いかに鳥コン機の設計製作が大変な物か分かります。
台があれば、"堕ちる"事はできるのですが、何度堕ちても飛ばない理由を突き止めるのは困難で、その内、意欲も続かなくなります。(ついでながら、"飛ぶ"人力プロペラ機は、更に、更に難題です。)"飛ぶ"グライダーを作ることが目的であれば、最初から『鳥人間コンテスト』参加を目標にするのは、意外にも、遠回りなのです。
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実際、『鳥コン』常連チームの多くは、平地でテスト飛行を繰り返しています。決して、ぶっつけ本番で飛び出しているわけではありません。陸上で少しずつ飛ばして完全に調整してしまいます。しかも正常に飛行すれば、本番での着水の衝撃は小さく、主要構造はほとんど無傷なのです。結果として、強いチームほど同じ機体を何年も改良して使っています。飛ぶグライダーは、"一発でオシャカ"ではないのです。
そこで、最初は平地で(例えば、学校のグランドで)安定して飛行する機体を目標に据える事で、『鳥コン』特有の難しさを避けるのが得策です。特に、厳しい重量の制約を受けない事は、設計を随分楽にします。仮にもし、100kg近い重量になったとしても、場所の都合さえ付けば、何とか飛ばすことができるのです。
試験飛行には、幅40m、長さ200m以上の直線が必要です。これを校内に確保できれば、最高に幸運です。地方の高校大学などでは可能な場合も多いでしょう。造成地や、河川敷も有力な候補です。ただし休耕田は、畦があるため、あまり向きません。
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設計と製作はセットにして語られることが多いのですが、難易度の全く違う行為です。製作には、設計の知識は不要です。しかし設計には、製作の知識が必須です。実際、多くの方にとって、製作ですら既に大きな壁です。ですから最初は設計に踏み込むのを避け、製作に焦点を絞ります。
まずは、実績のある機体の図面を入手し、製作技術の修得に専念するのが何より大切です。図面が無ければ、既存の機体を徹底的にコピーする事をお薦めします。優れたチームほど、親切に教えてくれる傾向がありますので、ともかく見学を申し込んで見ましょう。何度か足を運んで写真を撮ったり、スケッチしたりしているうちに、だんだん構造が見えてきます。一度で全てを得ようとしても無理ですので、できるだけ何度も通える近場に見学先を見付けたいところですが、こればかりは運です。
工作技法には幾つもの分野がありますが、極端に高度な技量を必要とすることはありません。木工、金工、FRP、塗装など、教われば短期間の練習で修得できる技術ばかりです。確かな図面に基づき、その指示通りに製作できれば、飛行に不安はありません。少しずつ調整しながら試験飛行を繰り返せば、必ず飛びます。
一方、"設計"の修得は、やはり難題です。航空工学の専門書を読んでも、具体的な設計法が示されているわけではありません。確立された学習法はありませんが、はっきり言えるのは、良い機体を多く見ることと、良い教師を見つけることです。単独で頑張っても迷子になってしまい、結果が出ません。また、設計には、少なくとも高校数学と物理を道具として使える能力が必要です。
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飛行機(より具体的にはグライダーですが)を製作するのに、いったいどのくらいの場所と設備が必要なのか。これらは、学校で飛行機を作ろうと考える時に、最も気になる事です。
グライダーは、意外に大きなものですので、車一台分のガレージに収納はできても、そこで製作するのは、かなり厳しいです。翼を5分割にして、六畳間で製作した例や、学校の廊下の突当たりで製作した例など、極端なケースはありますが、何れも自分で設計できる能力があってのことです。最初は、絶対に真似してはいけません。
最近は、少子化の影響で、空き教室が目立ってきましたが、これをひとつ占有できれば十分でしょう。放課後の教室を使い、朝までに片付けるという例もありますが、大変な苦労で、これもお勧めしません。少なくとも教室の半分程度のサイズのスペースを確保して下さい。その際、翼の工作を考え、広さより長さを重視します。また、完成した翼や胴体を搬出する経路も考えておく必要があります。冷暖房は、できればあったほうが良いでしょう。作業効率が全く違います。
工具もさほど特別なものは必要ありません。工業高校、工業高専なら、ほとんどのモノは揃っていることでしょう。丸ノコ盤と電動カンナ盤はあると便利ですが、業者に頼んで製材してもらってもそれほど費用はかかりません。ジグソーとバンドソーは、是非とも必要です。
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気になる予算です。仮に、必要な工具を全てそろえたとして、20万円、極端に高価な材料を使用しない限り、グライダー自体の材料費は、25〜50万円で済みます。意外に安く感じるかもしれませんが、ベテランほど安く済むのが現実です。これは、工作に出戻りが無いためで、ビギナーほど無駄に大量の材料を消費してしまいます。しかも、作業時間も何倍も掛かるため、飲食費が馬鹿になりません。
この無駄の大きさは、確実な設計図面を持っているかどうかで、決まります。図面が確定しているということは、やる事が明確になっているという事ですから、分業化とスケジュール管理によって、短期間での製作が可能になります。もし、設計が確定する前に製作に入れば、どんなにメンバーをたくさん集めても、すぐに手持ち無沙汰になりますし、見切りで進めれば、大きな出戻りが発生し、時間も材料も無駄になります。それで最後には、飛ばない飛行機が居座るのですから、「最初は、設計に手を出すな!」というのは、絶対の教訓なのです。
試験飛行の運搬費などは、所有する車の事情によって左右されますから、一概には言えませんが、典型的なのは、レンタカー代、とガソリン代です。トラックを持つ父兄の協力が得られればシメたものです。
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ここまでの内容をまとめると…
- 『鳥人間コンテスト』を最初から目標にしない。
- 200mx40m以上の平地を探す。
- 実績のある図面か、機体をコピーし、最初は設計には手を出さない。
※オリンポスでは『軽量滑空機SC-1製作図面』を販売中です。 - 空き教室を確保する。
- 25〜50万円を工面する。
ざっとこんなところです。学校で飛行機を作ることは、十分現実的です。是非、是非挑戦されること、お勧めいたします。最高の教材です。
本題から外れますが、ここ最近、よく耳にする『モノ作り教育』について少し。机上の理屈ばかりが先行し、実際にモノを作る能力が衰えた昨今、実際のモノ作りに重点を置こう、という教育方針とのこと。それを受けて、エコランにソーラー、『鳥コン』、またロボットと色々な競技が盛んですが、また一方、上位陣の固定化と中位以下の停滞感は、どの競技でも共通する状況です。これはどうした事でしょうか。
モノ作りと同時に推奨されがちなのが独創性ですが、どうもここに問題があるようです。「創意工夫して作りなさい、」というのは、もっともらしい主張ですが、これははっきり、"誤り"です。モノ作りの経験が必要なのは、基礎力が欠けているからであって、同時に独創性まで湧いては来ません。無理に求めても、ボクシングの素人が、いきなり"秘策"を練ってリングに上がるようなもので、返り討ちに遭うだけです。
独創性を重視すべきだと主張される方々の主旨は、「安易に解答を与えては、子供の考える力が育たない。」というものですが、とんでもない誤解です。例えば車について考えてみます。タイヤが4つ(あるいは、3つ)付いていて、前輪にステアリング機構がある基礎形に、「独創性が無い、」と主張される方は、まずいません。しかし、丸太のコロから車輪の発明に至るまで、人類は何千年も要しています。もし、日常生活で、自動車を見る事がなかったら、果たして個人の独創性で、車の基礎形に到達できるでしょうか。全くもって悲観的です。それどころか、その基礎形を無自覚に利用しただけで、フレームの構造や、軸受け、サスペンションなどの洗練された機能には、なかなか気付かないのが現実なのです。
また、トラブルが生じた場合、そこで停止してしまう車や船、あるいはロボットは、徐々にその原因を除いていくこともできますが、飛行機は空中には留まれません。大概そのトラブルの原因となった痕跡を消し去るほど壊れてしまいます。だんだんに原因を追い込んでいく事が大変困難なのです。そこに検証の甘い"独創"を差し挟む余地などありません。自主性、独創性を唱えて学生を放って置き、「失敗からも学べる」などと主張していては、どんどん学生の意欲を失わせていくばかりです。こと飛行機の製作では、失敗から学ぶ事は容易なことではありません。
独創の前に必要なのは、観察と模倣(学習)です。もし自分がダビンチやエジソンだったとしても、自力で飛行機までは到達できないのですから、人類の歴史的遺産を享受せず、裸で原野に駆け出すのは、独創性ではなく、ただの偏屈です。モノ作り教育は、観察と模倣のトレーニングの機会でなくてはなりません。世界は解答に満ち溢れているのです。しかしそれに着目する観察力こそが欠けているのです。優れた解答に触れた時にこそ、更に優れた解答への独創性が触発されるのです。ですから教師は、歴史的遺産の価値を学生に知らしめるナビゲーターでなくてはなりません。常に良質の解答を提示する責務を負っているのです。
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